なぜメスはオスを食べるのか?その行動の驚くべき理由とは
「魔性の女」「カマキリ女」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
これは、交尾の最中にオスを捕らえて食べてしまうという、カマキリのメスの習性に由来します。この奇妙で衝撃的な行動は、昆虫界においてもかなり異彩を放つものです。
では、なぜカマキリのメスは交尾相手であるオスを食べるのでしょうか?
実はこの行動、単なる残酷な本能ではなく、昆虫の神経構造に深く関係しているのです。
カマキリの神経と行動の仕組み

昆虫は、私たち人間のように脳がすべてを指令しているわけではなく、「神経節(しんけいせつ)」と呼ばれる構造がそれぞれの体の部位を独立して制御しています。
頭部には視覚や摂食、危険回避などを担当する中枢があり、一方で交尾に関わる神経節は腹部の末端に存在しています。
オスのカマキリは、交尾の最中にメスにじっと見つめられることで、本能的に「食われる」という危機感に襲われます。すると、頭部にある神経節がストレス反応を起こし、交尾行動そのものが抑制されてしまうのです。
しかし、ここでメスが驚きの行動に出ます。
なんとオスの頭部をそのまま「いただいて」しまうのです。
これにより、交尾行動を抑制していた神経が解除され、腹部の交尾中枢が解放されます。結果として、オスは頭を失ってもなお、最後まで交尾を続けることができるのです。
つまり、頭部を失ったオスは、もはや「交尾専用のマシーン」として働き続ける…そんな自然界のドラマが、草むらの陰でひっそりと繰り広げられているのです。
あのファーブルも驚いた!
このカマキリの行動は、かの有名な昆虫学者ジャン=アンリ・ファーブル(Jean-Henri Fabre)も観察し、大いに驚いたと記録に残しています。
彼の名著『昆虫記』にも、メスによる捕食と交尾の関係性についての詳細な観察が描かれています。
参考文献:
ファーブル著『昆虫記』第9巻(集英社文庫/石川湧訳)など
まとめ:自然界の奥深さと残酷な美しさ
このように、カマキリのメスがオスを食べる行動には、深い生物学的な理由があることがわかります。単なる残虐な生態というよりも、「種の存続」を最優先する昆虫の本能の表れと言えるでしょう。
自然界には、人間の常識では理解しがたい行動がまだまだ数多く存在します。
それでもどこか惹かれてしまうのは、そこに「生き抜く力」の真実があるからかもしれません。
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